花粉かと思っていたら、風邪のようでもある。花粉症の薬とパブロンをダブルで飲んでいるので眠気も二倍。眠気覚ましに、いっしょうけんめいキシリトールガムを噛みしめる。熱っぽいので、よほど会社を早退しようと思ったが、帰りに朝カルに寄るし、とガマンする。
今日のもぎけん先生ご紹介の論文は「A case of unusual autobiographical remembering」。割合読みやすい。AJことJill Priceの特筆すべき点は、彼女自身の過去や、興味のある対象の記憶を日付とリンクして詳細に覚えていることで、一般的知識教養の類の記憶には長けていないこと。また過去の個人的な記憶を反芻している時間が他人に比して異常に長いのだそうで、強迫症的な傾向がある。今のところ世界で4,5人しか見出されていないらしい。
テレビのワイドショーか何かの録画で、キャスターと彼女との対談を見せてもらう。彼女は「ふつうの人」に見える。レインマンのモデルになったKim Peak 氏などは、Savantであることや何か問われた場合の応答の早さなどからも一見してその非凡さが伺えるけれども、彼女の場合、相手の質問への反応時間はごく自然で、どこか考えながら、思い出しているようでもある。ちなみに、その記憶がニセモノでないことは、彼女はたまたま子供の頃から詳細な日記をつけ続けていて、記憶と記述が相違ないことなどからも示されるのだそうである。
面白かったのは、対談の最中、キャスターと話しながら「今も頭の中では過去の記憶が映画のように映し出されている」と言っていたこと。そのとき彼女はテレビ初出演だったらしいし、たとえ普通の状況下でも、誰かと面と向かって話をしているときに同時に頭の中で別の映像が回っている自覚があるというのは、かなり非凡である。(対話の方がうわの空になる、というなら少しは理解できるが、彼女の場合かなりマジメに応対していた。テレビ収録だし。)自動的に、または強迫症的に、過去のプライベートなエピソード記憶が「鍵」となる言葉をきっかけに、思い出されてくるそうである。「episodic retrieval mode」というらしい。
今日のお話は、そこから翻って、人間は得ると同時に何か失い、失うことによってまた得るのであって、詳細情報を忘れることによって、しみじみ味わいのある小津映画みたいな記憶が形作られるともいえませんでしょうかね、という流れではありましたが。
お茶の飲みすぎなのか、冷える。そそくさとトイレを出たところで思いがけず名前を呼ばれ、相手の顔をまじまじと見つめてしまう。社名とお名前を伺ってはじめて、3年ほど前にお目にかかった方だと漸く思い出す。聞けば2年も同じ講座を取られているとかで、言われてみれば教室でお見かけしたようでもある。最近どうですか、原材料高騰にリストラ、上層部のクビはすげ替えられるわで、まあなかなか色々あります。いやいや、decouplingという話でした、ええ、ここで仕事の話はやめましょうなどと話しつつ新宿駅へ向かう。
人の顔をおぼえるのがほんとうに苦手なのだが、しかし、我ながら、救いがたい。ながらくのご無礼をばおゆるしくださいませ。