2021/08/23

賃貸の自室マンションは幹線道路に面している。その道沿いのマンションたちを少し過ぎたところで折れて、高架下を通ると最寄駅に行くのに近道だ。

高架下なので、金網で仕切られた駐車場とか使途不明の狭い土地、階段通路などしかない殺風景な場所なのだけれども、ここにはよく靴が落ちている。

子供用の靴ならば、ああ自転車に乗っている時に脱げて落ちたのだろう、などと想像して納得するのだが、ここで見かけるのは決まって大人用の、多くは男性ものの黒い靴で、時には片方が金網に挟んであったり、低めのコンクリの塀の上に乗っていたりする。

今日は、高架下の手前にある、うろ覚えながら確かクリーンな麻雀の店とかと書かれた店先から数メートル離れたところに、オレンジ色のローファーが店に向かってキチンと揃えて置かれていた。

店内に入るのに靴を脱いで入ったとも思えない。換気でもしていたのか、扉が開いていた時に見た店内は確か椅子席で、脱ぐのは不自然だし、たとえ脱いだにしても数メートルは靴下か裸足で歩かなければ店に入れない。そもそも店外に靴を置きっぱなしにするのも妙だ。

よく屋上から飛び降りる人が靴を揃えて覚悟するシーンがあるけれども、あんな感じで、そのオレンジの靴はえらく丁寧に端然と整列していて、でもそのつま先の向かっている先は、麻雀の店なのである。

夕方見かけたそれは、オレンジのその色も相俟ってか今でも思い出せるほど鮮烈で、不自然で異様なのだけれども、きっと理由を聞いたら、なーんだ、そんなことだったのか、と思うに違いない。

きっと、こんがらがって意味不明で気持ちの悪いことの本当の理由は、意外と理路整然とシンプルだったりするものだろうと思う。そんなものだろう。けど、気持ち悪いものは悪い、ただそれだけのこと。